ロックイン・サーモグラフィによるソーラーパネルの測定事例 The measurement example of a solar panel by lock in thermography.
株式会社 ケン・オートメーション 〇矢尾板達也 / FLIR Systems Pierre Bremond Ken Automation, Inc. ○Tatsuya Yaoita / FLIR Systems Pierre Bremond
Abstract :
The demand of solar panels is expanded in connection with global warming. In order to raise the efficiency of a solar panel, let evaluation of a solar panel be an important needs. Here, lock in thermography is used, a solar panel is measured, and the example which performed various measurement is introduced.
緒言
地球の温暖化に伴い自然エネルギーを利用したエネルギーへの転換が求められている。ソーラーパネルの効率を高めるためには、内部欠陥/クラックの検出や組織の特性評価が必要とされる。ここでは、ロックイン・サーモグラフィを使用したソーラーパネルの評価手法に関して述べる。
ソーラーパネルを評価する手法としては、発光解析による不良個所の特定や、温度特性解析による不良個所の特定があり、ここでは高性能赤外線カメラ(図1)を使用した配線ショート・熱変換不良個所の特定、および温度分布の測定手法に関して述べる。赤外線カメラでは温度分布が測定されるが、ここではロックイン方式と繰り返し印加される電圧による温度変化を測定するロックイン・サーモグラフィを使用し測定対象物に発生する微細な温度変化を測定した。
赤外線サーモグラフィ
赤外線カメラ技術は2次元フォーカル・プレーン・アレイの赤外線検知素子を採用している。320X256画素または640X512画素、観測波長域MWIR(3-5μm)の赤外線検知素子(InSb)は、ステアリング・クーラー電子冷却器で冷却されており、1枚の赤外線画像における測定温度分解能(NETD)は25℃において0.025℃と、現在市販されている赤外線カメラとしてはトップレベルの温度分解能を有している。
また、観測波長域SWIR(0.8-2.5μm)の広帯域赤外線検知素子(MCT)も非破壊検査として使用されている。
非破壊検査では更に高い温度分解能が必要とされ、ロックイン方式(図2)と組み合わせて約2,000枚の画像を積算すると、温度分解能は0.001℃以上となる。繰返し印加電圧が掛けられた測定対象物の温度変動は、ロックイン方式とよばれる任意に設定した一定間隔のフレームレートに基づいて赤外線画像の取込みと演算を連続的に実施し、刻々と変動する測定対象物の温度変動量から最大温度差⊿Tを計算した画像を作成する。
640X512画素の赤外線カメラとマクロレンズと組み合わせることで、1画素当たり5μmの最小空間分解能での観測が可能となっており、ソーラーパネルの微小領域の測定に有効である。
シリコン・インゴットの測定
赤外線観測波長域SWIRの赤外線カメラを使用し、図3のような位置関係でシリコン・インゴット背面から照射された赤外線ランプによりシリコン・インゴットを透過させた。図4に示されるように、シリコン・インゴット中の結晶粒界や編析が評価される。
クラックの検出
ソーラーパネルは表面保護のためにガラスが貼ってある。赤外線は波長によって、以下の特性を持つ。
赤外線観測波長域2.7μm以下では放射率と反射率低く透過率が高い。赤外線観測波長域2.7~8μmでは波長が長くなるに従って透過率が0まで減少し、放射率は赤外線観測波長域5μmまでは放射率が1になるように増加し、反射率が低い。赤外線観測波長域8μm以上では放射率が約0.9で透過率は低い。
ここでは、図5に示すように、ソーラーパネルに赤外線ランプを一定のサイクルで照射し、赤外線画像とロックイン・サーモグラフィによる温度変化画像を示す(図6)。ロックイン・サーモグラフィを使用することで温度分解能が向上し、より小さなクラックの検出を可能にしている。
図6 クラックの検出
ロックイン・サーモグラフィによる印加電圧測定
図7に示すように、ソーラーパネルに対して印加電圧を一定のサイクルで印加するロックイン・サーモグラフィでは、S/N比の改善と、赤外線観測時の風や反射等の外乱要因の影響を小さくする効果がある。
ロックイン・サーモグラフィでは3種類の画像の撮影が行われる。赤外線画像の平均画像、発生する温度の変化を示した温度差画像、印加する入力信号と発熱のピークの時間差を示す位相画像である。
ソーラーパネルに印加する電圧の掛け方により、ソーラパネルのシャントに印加する順バイアス方式と、反対のソーラーパネルに印加する逆バイアス方式がある。順バイアスではシャントの発熱状態が観測され、逆バイアスではソーラーパネル内の剥離が観測される。同じ電圧で同じサイクルで印加させても、極性を変えると全く違った温度変化が示される。(図8、9)
ロックイン・サーモグラフィでは、印加する周波数を変化させることで、発熱箇所の領域を限定することができる。即ち、低サイクル印加では大きな温度変化となり大きな領域しか見えないのに対して、高サイクル印加では小さな領域に限定することができる。また印加する電圧を変化させることでも、発熱状態は変化する。
まとめ
ソーラーパネルの発電効率を高めるためには、素材の段階から様々な評価検証が必要とされる。また、人工衛星等で使用されるソーラーパネルでは高い耐久性と信頼生が要求される。
ここでは赤外線カメラを使用した幾つかの測定事例を示したが、赤外線観測波長域によって観測可能なものもが限定されるので、幾つかの手法を組み合わせる必要がある。
赤外線カメラの高性能化、併せてロックイン・サーモグラフィにより、短時間に小さな温度変化を検出することができるようになった。マクロレンズと組み合わせることで、640X512画素の赤外線カメラで、1画素当たり5μmの最小空間分解能での観測が可能となっており、微小領域の観測に有効である。
参考文献
- 矢尾板達也:最新の赤外線カメラの測定事例,検査技術,(2008年8月),日本工業出版
- Pierre Bremond, FLIR Systems-France:Applications of Thermography in Solar cell Industry.; NDE and Quality Control, 21 May 2008.
- 矢尾板達也:赤外線カメラによる応力測定と破壊の観測, 平成18年度春季大会, 日本非破壊検査協会